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2009/10/09 15:15
To / 片山さん
Sub/ 小田です。
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どうして熱愛中なんて嘘をついた
んですか?
私困ります。
片山さんのことは、いつも優しく
していただいて、お世話になって
いると思ってますけど、お仕事以
上のお付き合いは無いじゃないで
すか。
片山さんのことが分らなくなっち
ゃいます。
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From/ 片山さん
Sub / Re: 許してほしい。
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違うんだよ亜希子ちゃん。
俺は付き合ってるとは言ってはい
ない。
もちろん熱愛中とも言ってない。
俺が認めたのは、撮られた写真の、
一緒にライブハウスへ行った事実
だけだ。
でも、それに加えて、俺の亜希子
ちゃんに対する気持ちを正直に言
ったことで、記者が勝手に書いて
しまったんだ。
こんな迷惑を掛けることになって
しまって本当に申し訳ない。
でも、俺の亜希子ちゃんに対する
気持ちは嘘じゃない。それはわか
ってほしい。
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確かに、熱愛中だと報道された芸能ニュースの記事は翌日にはすぐ訂正されて、『片山健二、小田亜希子と真剣交際宣言』に変わった。
片山さんは私について、「小田さんは僕にとって特別な存在です。率直で芯はしっかりしてて、でも無邪気で、一緒にいて楽しい。あんな子には今まで出会ったことがない」
と、語ったと書かれている。
そのことについての返答を求められた私の所属事務所からのコメントも載っていた。
『小田亜希子と片山健二さんの間に現在交際中の事実はありません。片山さんは小田の、仕事上お世話になっている先輩であり、良きお友達でいていただいております。今後の二人の関係につきましても、温かい目で見守っていただきますようお願い申し上げます』と、なっていた。
少し曖昧なコメントの様に感じた。
私は事務所の人にはハッキリと、「片山さんとお付き合いする気持ちはありません。片山さんにはお仕事上お世話になってますが、お気持ちには応えることはできません」と話していた。
でも事務所の人からは、今きっぱりと彼の気持ちを拒否するのは得策ではない、と言われた。
片山さんは大手芸能事務所の人気タレントであり、現在人気トップクラスのアイドルだ。バラエティー番組でも活躍しててファン層も幅広いし熱心なファンもいる。
現に今回の写真誌が出た翌日には、もううちの事務所には熱狂的な片山さんファンと思われる人からのメールや手紙が多数届いたらしい。
私もそのいくつかを読ませてもらった。
[小田亜希子さん、あなたの様な普通の子が片山健二さんの相手では釣り合いが取れないと思いませんか。今すぐ芸能界から消えてください]
[だれ?おだあきこって。ケンジくんに何をしたの?ちょっと映画で注目されたからっていい気にならないでよね]
[今回のことはあなたの事務所が仕組んだ売名行為ですね。今すぐ片山さんとファンの人に謝罪してください]
私には見せない様にしてたけど、もっと露骨に私を中傷してるメールや、中には私の写真をビリビリに破いて送ってきたりしたのもあったそうだ。
私は事務所の人から説明を受けた。
「片山さんが思いを告白するコメントをしている以上、きっぱりと拒否をすると、逆にこういう熱狂的ファンの人の気持ちを逆撫でしてしまう恐れもある。親密な交際はしてません、今後もお友達の1人としてのお付き合いで・・・という感じでお茶を濁しておいた方がいい、そのうち話題性が無くなるとみんな冷めていくから」
確かにマスコミの反応の中には、片山さんの堂々とした告白に男らしくて良い、という風潮もある。
さわやか交際を見守るべき、といった発言も、テレビのコメンテーターの中にはあったりした。
「おつかれさんやな。お嬢ちゃん」
「あ・・・。めだかさん」
「まいったか?」
「うん。まいったよ・・・今回は・・・」
「今はずっと家か?」
「うん、大学に行っても記者に囲まれるし・・・近所のコンビニにも行けない。家を出られないよ・・・私は一切喋るなって言われてるけど・・・」
大学の友人達からは心配半分、好奇の目半分といったところだろうか。学食でお昼を食べていても、あちらこちらから覗き込む人の顔があったり、耳打ちをする人の姿があったりした。
家でももちろん心配された。お父さんは、仕事か大学、どちらかだけに専念することを考えたらどうか、と言ってくれた。大学を選んでほしいと思ってるように感じた。
「とうとうホンマの芸能人やなー」
「・・・めだかさんのご希望通りでしょ。満足?」
「肩、揉んだろか」
「あ、ホント?・・・って、ここ夢の中でしょ・・・」
「・・・気の抜けたツッコミやなー。
やっぱりかなりのまいり具合や・・・」
「どうすりゃいいんだか・・・」
「その後、片山健二からは?何か言うてきてるか?」
片山さんからはその後何度かメールをもらった。
私が片山さんのファンの人に迷惑をしていることを気遣い、丁寧にお詫びをしてくれて、何らかの形で償いをしたいとまで言ってくれている。
私は、そこまで気にされなくてもいいですよ、お互いにお仕事を頑張りましょう、と打って一度だけ返信した。
「ま、そんなところやろな。あとは放っとけば静まるやろ」
「・・・それがね。
片山さんがどうしてももう一度会って話したいって送ってきて」
「ああ、そりゃあかんで。今会うても、ええこと無しや」
「うん・・・そうだよね・・・」
「彼も大人やさかい、仕事の方の大事さを選ぶやろ」
「・・・。
・・・ねえ・・・めだかさん」
「ん?」
「・・・芸能界って、何なんだろうね」
大学と仕事へ行く以外は外出もできずに家でごろごろして過ごしてる間、中野さんからメールをもらった。
中野さんには、また本や作家さんについての情報交換をさせてもらいたいとお願いして、新年会のときにメールアドレスの交換をしてもらったのだ。
今回の片山さんとの交際報道について何か聞かれるかと思ったけど、そのことには全く触れずに、新年会のときに話した、私の好きな作家さんの最近のコラムや対談などの情報を丁寧に調べて送ってくれた。
中野さんらしいな、と思ってちょっと嬉しくなった。
須藤君からも一度、いろいろ大変そうだな、という内容のメールをもらった。
私はメールじゃなく、直接お話ししたいと思って電話をかけた。
でもタイミングが悪かったのか出てもらえなかったので、私は留守電に、報道のことは全然大丈夫だよ。また連絡するね、と伝言をしておいた。
その須藤君から後日電話が掛かってきた。
「その後、どう?元気か」
「うん、もう大丈夫。あんまり気にしてても仕方ないしね。仕事にも行ってるし、お母さんとお買い物とか、行くようにしてる」
「そっか。そうだな。大学の方は?」
「うん。行ってるよ。須藤君は?」
「うん。こっちもだいぶ馴染んできた」
須藤君は某有名私立大学に合格していた。彼は子供の頃から運動も勉強もよくできたのだ。だから女子にも人気があった。
去年の夏に野球部を引退してからの受験勉強への集中力もすごかった。
私が無理しても大学へ行こうと思った理由の一つには、彼の頑張りに影響されたこともあると思う。
「そういえば須藤君、3月に車の免許取ったんだよね」
「ああ、取ったよ。今は母親の軽自動車を借りてあっちこっち行ったりしてる」
「いいなー。私も免許取りたいな。ねえ、今度どっか連れてってよ。海とかさ」
「・・・」
「あれ、・・・どうかしたの?」
「小田・・・」
「ん?」
「オレ、もうお前と会わないよ」
「・・・」
「会わないようにする」
「・・・え?」
なんか声が遠い・・・もう会わない?今そう言った?誰と。私と。須藤君が。もう会わない。
言葉の意味が頭に入ってこない。
「あはは・・・何言ってんの須藤君」
須藤君、何か勘違いしてる。最近お話しする機会が少なかったからだ。
今は2人とも大学にやっと慣れてきて、これからまた時々会ってお喋りできれば・・・そうしようって言うつもりだったのに。
「あ、もしかして写真週刊誌とか、気にしてる?
今回は、片山さんがすごいスターだから、だよ。
私1人じゃ、記事にもなんにもなんないよ」
胸の鼓動が少し速くなるのが分る。
「もしも、もしもの話ね、私と須藤君が手をつないで街を歩いてたって、誰も何にも言わないよ。誰も気付かない。
ほら私って、芸能人オーラがゼロだからさ」
違う?私の言ってることはマト外れかな。須藤君はもう会わないようにする、と言った。私とは会っても面白くない?会っても何にもならない?だから会わないっていう意味?それとも、私とはもう会いたくないっていうこと?
「ねえ・・・片山さんのことは、私は、何とも思ってないよ。
本当に、このお仕事の先輩としか、いい人だけど、ただそれだけだよ」
なぜこんなことを言ってるんだろう。言うまでもないし、言うべきことでもないと思ってた。
須藤君は何も言わない。なにも返してくれない。私は無言の状態になるのが怖い。でも私はそのまま1人で喋ってると、何か変なことを言ってしまいそうだった。
須藤君があんないいかげんな記事を真に受けてるとは思っていない。
でもこの世界は嘘だらけで出来ている。それを真に受けて、いや、真に受けたりしなくても、それについてのいろんな興味だけで次の新しい嘘はあふれかえる。
ネット上では、もっと下品な言葉によって私と片山さんについての噂が交わされているそうだ。もちろん私はそんなものは見ない。気にしたことも無い。
須藤君もそうだと思ってた。
小さい頃からの私を知っている。家族以外で誰よりも私を知っていると思ってた。
でも、もし、私が須藤君を見てきた様に、須藤君が私のことを見れなくなってきてたとしたら。
須藤君が私を見る距離の間にいろんな嘘や誤解や、イメージや装飾が、いつの間にか入り込んでいて、私が須藤君から見えにくい位置までいつの間にか歩いていたとしたら。
私がそれに気が付かなかった、いや、気付こうともしなかったのだとしたら。
やっぱり、言ってしまう。大学生にもなって。私は。
「須藤君。私のこと、・・・嫌いになった?」
彼は、いいや、違う、と言った。
私のことは大切に思ってる、と言った。
そして、だからもう会わない、と。
私は、泣くこともできなかった。
写真週刊誌の報道から2週間が過ぎた。
私は大学に行き、事務所に顔を出し、次の仕事の打ち合わせをし、雑誌の取材を受け、対談の仕事をこなした。
以前と、特に何も変わらなかった。
小田亜希子は恋愛報道で少し世間から注目され、ファンに恨まれたり好奇の目で見られたりして気の休まらない日々を少し過ごしたけど、また普通に仕事と学業に励む1人の若手女優に戻った。
そしてそれは、私とはほとんど関係の無いことの様だった。
あの須藤君からの電話があった日から3日間、私はほとんど眠ることができずに、今日、仕事の帰りに須藤君の家に寄った。自分でも思いがけずにタクシーをそちらに向かわせてしまった。
まだ暗くなる前の夕方だった。須藤君はいるかどうか不安だったけど、彼は家にいた。
彼は私を見て驚いて、すぐ家に入れようとしたけど思いとどまり、車のキーを取りに行った。多分、中にはお母さんもいらしたんだと思った。
彼はお母さんのだという軽自動車を出してくれて、私を乗せてしばらく走った。
そして2人が通った中学校の横の川沿いの道路に車を止めて、しばらく学校のグラウンドを眺めたり川を眺めたりした。
須藤君は印象が少し変わってた。最初に見たときにハッとした。
何かサッパリと、余分なものが洗い落とされた後の様な爽やかさがあった。
去年までの、スポーツをしてる男の子の素朴な印象は無くなり、いかにも今時の大学生の雰囲気があった。
ひょっとしたらもっと前から彼は変わってたのかもしれない。私が気付かなかっただけなのかもしれない。
彼はいつもと変わらず私を真っ直ぐ見つめる。
私は彼をまともに見ることができない。
私が何も喋らずにいると、彼の方から話し出してくれた。
なぜ、もう私と会わない方がいいと思ったのかを。
須藤君には今お付き合いしてる人がいた。
付き合い始めてから半年以上経つという。高校3年の2学期からだ。
相手の人は野球部のマネージャーをしてた女の子で、ずっと須藤君のことが好きで、高校1年生の頃から思いを伝えていた。
須藤君は、その思いを知りながらもずっと応えられずに、野球に打ち込んできた。
彼女もそんな須藤君をそばでずっと見てきた。
須藤君は野球部を引退した後に答えを出すつもりだったという。
そんな時期に、あの私とのキスがあった。
私はあのキスで須藤君の気持ちを少し戸惑わせ、迷わせた。
須藤君には、芸能界で女優としてやっていく私を支えたい、という思いがあり、実際に支えになれているという自覚もあったという。
そして、あのキスでそれを再確認しながら、でも本当の意味での気持ちを分かり合える存在には絶対になれないことも感じた。そう言った。
そして彼女の思いを受け入れることにした。
彼女と付き合っても、私のことは、今までと同じよう支えになれると思った。
しかし、共に同じものを、同じ目線で見て、感じて、同じ場所でお互いを認め合える相手として、素直な気持ちで望む相手は彼女の方だった。
私にそれを望むことは、もう出来ないと思った。
今度の報道で、片山健二という国民的なアイドルと親しげに話す私を見て、立っている場所の違いは決定的なものになった。須藤君はそう言った。
須藤君と彼女は同じ大学に通っていて、ほとんど毎日顔を合わせ会話を交わすらしい。
私とは、たまに電話やメールで近況を報告し、テレビや雑誌や、芸能ニュースで見て姿を確認する。
やはり彼女は気にするだろうな。幼馴染というだけで、自分の彼氏を都合のいいときに呼び出して、芸能界の噂話の相談を持ちかける芸能人を。
なんだ。そうなんだ。
結局はそういうことだ。大事な彼女が出来たから、便利な相談役なんかやってられないってことだ。彼女のためだ。
それだけのことだ。
私は無言で車から降り、数年前には制服を着て通学してた道を歩き出した。
須藤君とふざけあいながら並んで帰ったこともある道。
彼は追いかけては来ない。
私は今日何をするつもりで彼に会いにいったんだろう。
もう会わないと言ったわけを聞いて、どうするつもりだったんだろう。
会いたくないことには理由があって、その理由には原因があって、原因を突き止めるまで2人で話しをして、原因が分れば解決して。
そして最後には2人で、なあんだ、って笑いあって、元通りになると思ってたんだろうか。子供の頃、ちょっとしたことでケンカしたときの様に。
私は須藤君の存在を当たり前の様に思っていた。
小さい頃から近くにいて、冗談を言い合えて、素直に彼のことを応援できて。
私は彼の他愛も無い話しも、真剣な話しも、なんでも聞いてあげられた。そうしてきたつもりだった。
だから私も彼に話せた。相談もできた。そこに何の疑問もなかった。
なぜ、当たり前だと思い込んでいたのか。
いつの間にか関係はこんなに変わってきてたのに。
彼がいなくなるなんて思いもしなかった。
いなくなるまで、そのことに気付かないなんて、思いもしなかった。
彼に、好きな人ができるなんて。
それがこんなにも苦しいなんて。
「お嬢ちゃん、大丈夫か」
「・・・あ、めだかさん・・・」
「なあ、頼むからちゃんと寝てくれ」
「え?」
「眠りが深くないとわしは出て来られへんのや。
それに、お嬢ちゃんの神経も、もう限界近いで」
「・・・今日は、寝てるんだ、私」
「何言うてんねん。さっき家まで帰ってきて、玄関で倒れたんやで、お兄ちゃんが部屋まで運んできたんや」
「あ、そうか」
「そうかやないよ。メシもほとんど食えてないやろ?倒れん方がおかしいで」
「・・・もういい」
「ん?何がええんや」
「もういいよ。めだかさん
・・・私、もうやめるから・・・」
「やめる?ちょ、何言うてんねん。
お嬢ちゃん、自分が何言うてんのか分ってんのか?」
「私ね・・・今日、須藤君に、全部話そうと思ってたの。めだかさんのことも」
「・・・」
そうだった。私にはそのつもりもあった。
私が須藤君と真剣に向き合えない理由には、私には二十歳以後の未来が確定していないという、どうしようもない条件があった。
私は怖がってた。近付きすぎるのを。彼の存在に支えられて立っていると分っていながら、心の奥で距離をとっていた。
でも最近は、私にもかなりの確率で、このまま生きていけそうな自信も出てきていた。
あと2年。あと2年頑張れば、女優からも芸能界からも解放される。
ただの小田亜希子になれる。
ただの小田亜希子として須藤君と向き合える。そう思っていた。
それさえ理解してもらえれば、ひょっとしたら、待っててもらえるかもしれないと思ってたのだ。都合のいいことに。
「そのことを分ってもらうには・・・めだかさんのことを話して、めだかさんとの約束のことを話して。それを理解してもらうために8年前の川での出来事を話して・・・」
「お嬢ちゃん・・・」
「麻衣ちゃんと川に落ちたことを話して、私だけ生き返ったことを話して・・・」
「お嬢ちゃん、もうええよ」
「10年で女優になることを話して、なれなかったら死んじゃうことを話して」
「もうええって」
「ねえ、誰がそんなこと信じるの!
みんな引いちゃうよ!かわいそうな目で見られちゃうよ!」
「・・・」
「もういいよ!終わりにしよう!」
「・・・お嬢ちゃん」
「ここで終わりでいい」
「・・・」
「めだかさんなんか、もう会いたくもない!」
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